この記事は、日経ホームビルダー2019年4月号の「健康住宅特集」のページを元に作成した記事です。
断熱性能に優れた家が、暮らす人にどのような影響をもたらすのか?
光熱費をはじめとしたの費用の面の他、健康に与える影響について、『スマートウェルネス住宅等推進調査委員会中間報告』の調査結果として紹介されています。
断熱性能の高性能化が進む昨今ですが、「”断熱性能”と”健康”の関係性を確認するのにとても良い文献だと思い取り上げることにしました。
新築こそ「耐震性」と「温熱環境」を重視する理由!
私は「新築住宅」の最大の恩恵は、
「耐震性」と「温熱環境」の高い住宅を手に入れられることだと考えています。
後から改修にて対応することも可能ですが、
余計な費用がかかったり、綺麗に施工できないことがありますが、新築工事の場合はスムーズにできます。
外装や内装を変えることは比較的容易なのですが、
この”家の根本的な要素”である2点においては、新築時の計画が全てだと考えます。
中古住宅を改修するのも良いのですが、この2つに手を付けようとすると多額の費用が必要となりますし、構造上の制約が発生する可能性が高いです。
これが、私が家づくりをする方へ「耐震性」と「住環境」の高い住宅を薦める理由です。
今回取り上げる日経ホームビルダーの記事は、「住宅の性能向上が暮らす人へもたらすメリット」について再確認することができる内容となっています。
これから「家づくり」をする皆様の参考になれば嬉しいです。
”7つ”の健康面メリットとは?
今回紹介された知見は「7つ」です。
その1|部屋間の室温差と血圧の関係
”その1”は、”部屋間の室温差”と”血圧”の関係性です。
「室温安定群」「室温不安定群」によって、起床時の血圧差が見られます。
・【室温安定群】とは居室の温度が、冬18℃以上、夏25℃以下の住宅に住む被験者のこと
・【室温不安定群】とは居室の温度が、冬18℃以下、夏25℃以上の住宅に住む被験者のこと
【最高血圧】室温不安定群:9.8mmHg
室温安定群 :2.3mmHg
【最低血圧】
室温不安定群:5.4mmHg
室温安定群 :1.1mmHg
これは、2014年冬から2017年冬までの3年間・約2,100世帯・約3,800人を対象に調査されたデータが根拠となっています。
室温が安定している住宅(室温安定群)の方が、血圧の変動が少ないことがわかります。
実に興味深いデータです。
その2|1℃の違いで血圧が低下
起床時の寝室と居間の室温と血圧の関係を比較したところ、
寝室と居間共に18℃の場合 :130mmHg
寝室10℃、居間18℃の場合:132mmHg
血圧差:2mmHg
という結果となったそうです。
部屋の温度差が血圧に関係することが実証されたデータです。
足元付近(床付近)の室温が血圧に与える影響
さらに、足元付近(床付近)の室温が血圧に与える影響もわかったそうです。
床上1m:1℃上昇で0.68mmHg
床近傍 :1℃上昇で0.81mmHg
高断熱をうたわれた住宅では、部屋の上下の温度差が重要だとわかります。
高断熱性能住宅を計画しても、施工が悪く隙間風が侵入してしまうと、
暖かい空気が上へ、冷たい空気が下に溜まり想定している効果が得られないので注意が必要です。
この室内上下の温度差の他に気を付けたいのが、「気流止め」です。
↓↓ 気流止めに関する記事はこちら ↓↓
こちらは、設計実務者向けのサイト「ARCHITECTURE ARCHIVE」の記事ですが、建て主様にも参考になると思います。
その3|動脈硬化リスクの影響
断熱改修前後の血圧変化を比較したところ、
「断熱改修をした方が血圧が低下する」というデータが発表されています。
最高血圧:3.5mmHg 最低血圧:1.5mmHg
これは、「断熱改修を実施した被験者975人」と「実施しなかった被験者108人」のデータを元に検証された結果です。
「最高血圧」「最低血圧」共に断熱改修後の血圧が下がっていることがわかります。
その4|室温と血中コレステロールの関係
コレステロール値と心電図の異常所見を分析したところ、
室温18℃未満の住宅は室温18℃以上の住宅に比べて動脈硬化などのリスクが高い傾向となりました。
【凡例】室温18℃以上:温暖群 ・ 室温18℃以下:寒冷群
総コレステロール値が基準範囲を超える220mg/dL以上の割合は2.6倍に上るそうです。
心電図の異常所見がある場合も、寒冷群が1.9倍高い結果となったそうです。
その5|”過活動ぼうこう”と室温の関係性
『過活動ぼうこう症状』を患うと、
急に尿意を催して我慢できなくなったり、夜中に何度もトイレに起きたりすることになります。
今回発表されたデータでは、
断熱改修し就寝前の居間の温度が上昇した住宅では、”過活動ぼうこう症状”が緩和することが明らかになりました。
室温維持を「1」とした場合、
室温上昇群は0.5倍(半減)、室温下降群は1.8倍(増加)する結果となりました。
その6|床付近温度と諸疾病・諸症状の影響
床付近の室温が低い住宅では、
様々な疾病・症状を抱える方が多いことわかりました。
上のグラフは、住宅を3つのタイプに分類して比較したグラフです。
住宅の区分は以下の通りです。
温暖群:冬の床上1mの室温16℃以上、床付近の室温15℃以上
中間群:冬の床上1mの室温16℃以上、床付近の室温15℃未満
寒冷群:冬の床上1mの室温16℃未満、床付近の室温15℃未満
それぞれのタイプについて、
「高血圧」
「脂質異常症」
「糖尿病」
「耳の聞こえにくさ」
「骨折・捻挫・脱臼」
の5項目について、1年間における症状の有無を調査して分析した結果です。
温暖群の結果を基準として、中間群と寒冷群の比率(オッズ)を割り出されました。
この結果が、室温が温暖な方が様々な疾病・症状が減るという根拠です。
その7|室温と居住者の住宅内での活動量の関係
断熱改修前と断熱改修後の活動量を比較したところ、男性・女性ともに活動量の増加が見られたそうです。
住宅内の身体活動とは?
・料理
・洗濯
・皿洗い
・風呂掃除
・草むしり
・子供と遊ぶ
・家具の移動
・雪かき 等
(テレビ視聴や読書は含めない。)
まずは、男性の結果をみてみましょう。
男性の場合
65歳未満の場合:活動時間が約23分増加。
65歳以上の場合:活動時間が約35分増加。
した結果となりました。
『こたつ有り』『こたつ無し』で活動量が変化するのが男性に見られる特徴です。
(確かに、私自身”こたつ”があるとつい横になりがちです・・・)
続いて女性のデータです。
女性の場合
女性の場合は、活動が増加したケースが2通りありました。
ケース1)脱衣所の暖房を使い始めた場合。【下グラフの改修後1】
ケース2)脱衣室の暖房が不要となった場合。【下グラフの改修後2】
男性・女性共に、
断熱性能が上昇し、家内の温度変化がもたらす生活習慣の変化が、室内での活動量に影響を与えることがわかります。
どちらも、「脱衣所の暖房の有無が活動量に変化をもたらす点」が興味深いです。
この根拠は今後も検証していきたいと思います。
さいごに
今回は、日経ホームビルダー2019年4月号の「健康住宅特集」のページより、
『優れた断熱性能が住む人にもたらす健康面のメリット』について紹介させて頂きました。
これらの結果から考察すると、
『家の断熱性能が良くなる』
↓
『生活習慣が変わる。(活動量が増える)』
↓
『様々な疾病・症状が減る』
↓
『健康になる』
というのが、「優れた断熱性能が健康に良い」とされる構図だと私は考えます。
この記事を考察して、
「住宅の性能向上が暮らす人へもたらすメリット」について再確認することができました。
断熱性能に優れた家がもっと普及して、全ての人が健康に暮らせる世の中になれば嬉しいです。
ARCHITECTURE ARCHIVEのお知らせ
建築技術者向けに、住環境に関する情報を発信しています。
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最後まで閲覧頂きまして、
ありがとうございました。m(_ _)m
この記事を書いた人 「まるたか」
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★「職人」から「建築士」へ 異色の経歴を持つ建築士
2018年10月に設計事務所「 Samurai-architect(サムライ-アーキテクト)」を開設
退職〜開業までの記録を綴った 「開業の記録シリーズ」を公開中。
実務については、『ARCHITECTURE ARCHIVE 〜建築 知のインフラ~』にて情報発信中。
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